Flower Life Stylist

Research materials 調査研究資料

花き(鑑賞用の花や緑)は、私たち人間が生きてゆくうえで、心や体に大きな影響を持たらす効用があることがわかっています。
花は、私たちの日々の暮らしの彩りを添えるだけでなく心にゆとりを与え、体にも良い影響を与えてくれます。
一般社団法人フラワーライフスタイリスト協会は、この花のチカラ(効用)に注目し、健康と豊かさのために医療や福祉、地域連携といった分野で積極的な花きの活用を提案してまいります。

アクティビティケアプログラムの検証

アクティビティケアとは、施設などで行われる生き生きとした生活を取り戻すためのレクリエーションなどを 活用したケアのことです。
私たちは、先行研究で実証されたフラワーアレンジメント活用の効用をふまえ、平成30年3月に東京都内の高齢者施設で延べ33名のご高齢者のご協力によりレクリエーション効果を 図るため計6回のフラワーアレンジメントを使ったプログラムの臨床実証を行い、アンケート等により感想 などをお聞きしました。

実施後のアンケート結果

今日のフラワーアレンジメントは楽しかったですか?(合計)

  • とても楽しかった…64%
  • 楽しかった…36%
  • あまり楽しくなかった…0%
  • 楽しくなかった…0%
ハサミを
使った回

ハサミを使った回

  • とても楽しかった…76%
  • 楽しかった…24%
  • あまり楽しくなかった…0%
  • 楽しくなかった…0%
ハサミを
使わない回

ハサミを使わない回

  • とても楽しかった…50%
  • 楽しかった…50%
  • あまり楽しくなかった…0%
  • 楽しくなかった…0%

6回の実証のうち、自分でハサミを使い花をカットする回とあらかじめカットされた花を使う回の印象を比較しました。楽しさの度合いに変化がみられます。

またやりたいと思いますか?(合計)

  • ぜひやりたい…67%
  • 機会があればまたやりたい…30%
  • 積極的にやりたいとは思わない…3%
  • やりたいとは思わない…0%

スポンジの印は役にたちましたか?

  • 印は大変役に立った…82%
  • どちらかといえば役に立った…15%
  • 印はあまり役にたたなかった…3%
  • 印はないほうがい良い…0%

印をつけた補助機能付き
スポンジを使用しました

のグラフはプログラムの実施前と後で変化する気持ちを点数化して比較したものです。
「今の気分はどれですか?」に対する回答を、

  • 良い……………5点
  • やや良い………4点
  • ふつう…………3点
  • やや悪い………2点
  • 悪い……………1点

に置き換え総点数としました。
主観評価は本人の回答、客観評価は評価者の判断です。

臨床事例

認知リハビリテーションに参加した重度認知症のSさんは、アクティビティケアプログラムの中で「頭はボーしているけどお花を見るとパーといきいきするの。これがあるからできる。」とコメントし、作品作りを楽しんでいました。

教具・教材について

アクティビティケアはグループ活動によるレクリエーションとして運営するものであり、参加者の達成感、自己効力感を重視します。
ひとつの作品を作り上げた際の満足感は達成感につながり、達成感を繰り返すことで自己効力感「自分はできる」という気持ちを生む本質です。アクティビティケアでは、この心理的機序により、気持ちのプラス変化をもたらすことを効果としてめざします。この効果を最大化するために、本事業の臨床実証により教具・教材・教示法等の検証を行いました。

教具

今回の臨床実証では、

  1. 花をあらかじめカットしスポンジに挿すだけの教示
  2. 自ら花をハサミでカットし、スポンジに挿す

2パターンの教示の検証を行ったが、②の教示においてハサミとスケールシートを教具として使用した。

ハサミ
ハサミ

ハサミは一般的にフラワーデザイン用として流通しているものを使用した。刃物の使用に対し事故を懸念されることもあるが、ハサミを使用する作業は極めて日常生活に密着したものであり、認知症高齢者にとって障害となる要素は少ない。ただし、手指が不可動ケースでは介助が必要である。使用するハサミは切れ味が劣ったものは以下の理由で使用は避けるようにする。

  • 余計な力が必要となり負荷かかかること。
  • そのため事故のリスクが発生すること。
  • 植物の導管(水の通り道)をつぶすため日持ちがしなくなること。

なお、桜等の枝もののカットは作業負荷が高いので、あらかじめスタッフがカットして提供する。

スケール
スケール

シート 花をカットする長さを示したプリントを各参加者のテーブル上に設置する。スケールは、花材を模した実寸大のイラスト等で表示し、長さを示す単位(cm)を添える。 スケールのイラストはアレンジメントの形状に応じ、主要花材2種類程度の表示がわかりやすい。また、スケールは横方向に置くことが作業しやすい。

《参加者のコメントの例》

  • 「スケールがあったほうが自分で切ったりできるから良い」
  • 「長さのシートは大変役に立った」
  • 「スケールシートは大変役に立った。」

教材

フラワーベース

十分に吸水した専用の吸水スポンジを器にセットしたものをフラワーベースとして使用する。フラワーベースはフラワーアレンジメントの形状に応じて、花材を挿す位置に色付きの印をつける補助機能を有する。 今回の臨床実証では、ラウンド型2タイプ、ガーデン型1タイプを検証した。
ラウンド型は、決まった花を決まった場所に挿す定型的作業によるアレンジメントで「見本と同じ形にできること」を目標に教示するが、ガーデン型は制作の裁量度合いが高く創造性を発揮することができる教材である。印の位置は作品の構造上重要な意味を持つものであり、ラウンド型は作品のサイズに応じ固定される。ガーデン型は、作品のデザインスタイルに応じて、印の位置、数が変動する。

ラウンド型1
ラウンド型2
ガーデン1型とスケールシート・ハサミ
花材

生花は色彩や香りなどの感覚刺激により心身が賦活することや、ストレス軽減などの効用は既に周知のとおりであるが、花の付き方(咲き方)による作業の難易度変化が顕著に観察された。
また、花材の品質や組み合わせの意匠性やセンスの良し悪しは、プログラムの満足度に大きな影響を及ぼすものであることも改めて確認できた。また、花の形状や組み合わせは課題難易度にも大きく影響することがわかった。
アクティビティケアでは、制作の満足度、達成感を求めるが、それらはあくまでも参加者の作業能力と課題の難易度のバランスの中で生じる。つまり花材の種類が増えれば作業は複雑化し、少なければ簡素化する。能力に対し課題難易度が大きく上回った場合、作業者は「難しくて自分にはできない」と感じ不安やストレスの要因となる。逆に課題難易度が能力を大きく下回った場合、「簡単でつまらない」と感じ、退屈感ひいては「バカにされている」という悪感情を誘発しかねない。
この点を考慮し、花材の組み合わせ方はプログラムの課題の難易度に直結することを念頭に花材を構成することが重要である。

教示方について

アクティビティケアプログラムを導入する上での教示法を解説いたします。

参加者の人数

参加者の容態にもよるが、アクティビティケアのプログラムとして適正に運営する上で、以下の観点で1グループの適正人数を調整する必要がある。

  • 会場のスペース
  • 参加者とスタッフのコミュニケーション
  • ならびに参加者どうしのコミュニケーション効果
  • スタッフが教示のために移動する効率

1グループあたりの人数が多くなれば、参加者どうしのコミュニケーションは粗となり、逆に少ない場合は密となる。今回の臨床実証では、会場スペースの観点で1グループあたりの人数を原則6名(回によっては5名)としたが、参加者どうしのコミュニケーションという観点においても、運営ロットとして適正であったと判断する。
参加者の人数がさらに増加する場合は、参加者を2つのグループに分ける等の対応が望まれる。

教示スタッフの人数

今回の臨床実証は、教示スタッフ2名(正副各1名ずつ)で行ったが、参加者とのコミュニケーション効果ならびに教示の効率の視点で1グループあたり運営体制としては、ほぼ適正であったと判断する。
参加者が増えてグループを分割する場合は、そのグループに応じ場合教示スタッフの人数は増やす必要がある。
なお、参加者総数が増えなくても認知症等の容体が重い(介助負荷が高い)参加者の比率が高い場合も、教示スタッフの増員は必要となる。

教示方法

  1.   プログラムの進行手順と時間配分

    プログラムは以下のア)~ㇰ)の進行が適する。所要時間は各項目で概ね3~5分程度を目安とし、プログラム開始から参加者の退去まで、最長でも1時間以内で完了するよう進行させる。

    1. 教示スタッフの自己紹介と参加者自己紹介
    2. 時候の話題と当日のプログラムのテーマ
    3. 当日の花材の紹介と制作手順の説明
    4. グリーン(葉モノ)を挿す
    5. 主の花材を挿す
    6. 副の花材を挿す
    7. 添えの花材(または葉モノ)を挿す
    8. 教示スタッフによる講評
  2.   教示スタッフの役割分担

    今回の臨床実証では、教示スタッフは6名1グループの参加者に対し正(以下ヘッドと称す)、副(以下アシスタントと称す)各1名を配したが、ヘッドならびにアシスタントは以下のような役割分担により  運営を行った。

    • ヘッドの主たる役割は、グループ全体のプログラム進行やコミュニケーションを統制する全体対応にある。
    • アシスタントの役割は、参加者の個々人の状況を把握し必要な介入(個別対応)を行う。
  3.   プログラムの構築

    今回のプログラムは、ラウンド型2タイプ、ガーデン型1タイプそれぞれハサミを使用した回と使用しない回にわけて検証した。ハサミ使用の効果は前述したように、作業としての満足度と達成感を得る上で有効であると判断するが、事前に身体状況を判断して決めるべきである。
    ここでは、作品の形状に応じた教示法の特徴を述べる。

【ラウンド型】

ラウンド型はドーム状のフラワーアレンジメントである。実用場面としては、食卓の中央等におき四方から観賞するため「四方見」と称し、どの角度から見ても均一なドーム型に仕上げるのが特徴である。

《作業特性》

  • 花材の長さは原則同一とし、吸水スポンジ状の決められた位置に花を挿す定型的な制作である。
  • 単純化された作業のため制作者個々人の創意、意匠は反映しずらい反面、手順どうりに作業すればきれいな作品にしあげることができる。

《評価基準》

  • 評価の基準は、自己評価、他者評価共に“見本どうりにきれいなドーム型に仕上げられているか否か”つまり作業の正確性に基づくものであり、制作者のセンスや意匠性などの情緒性な能力的な比較には及ばない。
  • 均一に花材で空間を埋められているか。

《教示の要点の例》

  • 見本のようなドーム型の再現性。
  • 花材の位置、向きの正確性。
  • 花材の位置、高低などのバランスが取れていない場合、制作者が気にしている場合は手直しを教示するが、それを個性として評価する。

【ガーデン型】

《作業特性》 ・花材は使用目的に応じてカットする長さを変える。吸水スポンジに挿す位置は、主要花材は指定するが制作者の裁量余地を残す。

  • ラウンド型に比べ、制作者の意匠性を反映しやすい。

《評価基準》

  • ガーデン型の評価基準は、ラウンド型に比べて主観的な要素が強いため制作者のセンス、意匠力などの能力的評価に及びやすい。
  • 自己評価の基準は、制作者が思い描いたイメージの再現性が中心となる。
  • 他者評価の基準は、作品が他者にあたえる客観的な印象、意匠性である。

《教示の要点の例》

  • 対象者に風景や庭などの作品モチーフをイメージ想起させる。
  • 主要花材の位置は予め給水スポンジ上に印をつけているが、自分の裁量で制作を希望する場合は印どおりでなくても良い。
  • 制作者が作業を迷っている場合は介入するが、基本的に制作者の創意で作業を進める。
  • 完成後は、制作者の制作意図を聞き出しほめる。

プログラム構築は、上記のように作品の形状によって大きく異なる作業特性や評価基準を、目的に応じて使い分け(組み合わせる)、それぞれの教示法が異なります。 導入時、参加者の能力が十分に把握できていない段階では、ラウンド型を使い教具、教材に慣れさせるとともに、対象者の能力を観察しその後のプログラム構築の判断材料とすることを推奨いたします。

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  • 国産花きイノベーション推進事業のリーフレット

    平成29年度、国産花きイノベーション推進事業のリーフレットは、下記のボタンをクリックし、
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  • 花を利用した認知リハビリテーションSFAプログラムの手引き

    花を利用した認知リハビリテーションSFAプログラムの手引きは、インターネットマガジンでご覧いただけます。Flash版とHTML5版をご用意しております。内容は同じです。ご利用の端末にて最適にご覧になれる方をご利用ください。
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  • アクティビティケアに向けたフラワーアレンジメントプログラム

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